JM data Update:04/08/25

▼ Jun Miyake Special Interview #4


第4回 『MASK DE 41』大解剖 インタビュー・構成 : Kiev


Kiev@WebMaster :
 まずは、今回のお話のオファーについてはいつ頃どういった経緯で?

三宅さん :
 えーと、いつだっけ?・・・3年ほど前の春かな? 
 CMでご一緒することの多い村本天志監督から、「映画を撮りたいと思っている、もし決まったら是非音楽を」→「脚本が固まってきた、読んで欲しい」→「プロレス興業と並行してテント上演、ライブ演奏なんて企画もある」→「それで音楽はとにかくラテンが良いんだ!」 という流れでお話がありました。

8/4発売 『MASK DE 41』 オリジナル・サウンドトラック

 今回村本さんにとっての「ラテン」とは果たしてどの領域なのか、というお話を伺う中で、アサド兄弟やブエナ・ビスタといった南米の音楽は大好きなんだけど、もっと大元のラテン民族の音、それもフラメンコのニュアンスが強いことがだんだん見えてきた。ちょうどその頃ご一緒したいくつかのCMもその傾向にあったので、ハイパーなフラメンコで行こうということで走り始めました。プロレス=メキシコではなくて、何故かフラメンコな所も気に入りました。
 またしても「常習性が無かった音楽」をやることになったわけですが、とても勉強になったなぁ。
 フラメンコはジプシー=ロマ民族の影響を強く受けた音楽ですが、ロマ民族のルーツはパキスタン、トルコ周辺=音楽的にはスーフィーにあって、スペインに至るまでの道を辿っていくと異種交配していく音楽史が見えてくる、面白いです。
 僕の中でロマの音楽とクレズマーなどジューイッシュの音楽は至近距離にあり、そこから派生、発展したもの全てが持つ傾斜した旋律と、抑圧された情熱が僕は好きです。

●なるほどー。こちらも勉強になります。
 思い起こせば最初に当サイトに情報を頂いてお知らせをしたのが'01年6月なので確かに3年前。当初'01年秋に映画公開予定だったものがここまでズレ込んでしまいましたが、6月時点で既にレコーディングは終了していたということですか?

◆時系列の記憶無し・・・しかしマキマキのスケジュールだったのは確かです。7月の初めにはDTS用のサラウンドミックスが終わってたんじゃなかったかな?
 大人の事情は分かりませんが、小屋も持っている大手映画会社のものは、公演スケジュールが容易に組めるようです。でもそうでない場合は小屋待ちみたいなことがごく日常的にあるみたいですね。それでもスケジュールがマキマキなのは撮影予算の関係上、俳優の押さえや、スタジオの押さえ期間から逆算して制作期間が決まるからでしょうね。

●うーん、我々の知らないところにいろんな事情があるんですねぇ。
 「ちょうどその頃ご一緒したいくつかのCM」の一つが、今回収録されている「Para mi Canta」(M-9、22)が使われた某N社のCMですよね?

◆そうです。N社ではいくつかフラメンコを作りました。
 実はA社でも・・・めちゃくちゃ競合してますね。しかも監督は村本さんだし。

●「Para mi Canta」はこの映画の主題歌/テーマ曲という位置付けなのでしょうか?

◆M-2の「Cerca de Ti」が一応メインテーマ扱い、「Para mi Canta」はクロージング・テーマという感じだと思います。
 M-9はwarehouse versionとなってますが、これは文字通り劇中で「倉庫を改造した練習場」のシーンで使われたから。M-22のEnd Roll versionとは実はサビのメロディーラインが違っているのです。曲の進行も微妙に違っていて、時間軸も別テイクで録っています。

●えー!そうなんですか? 進行が違うのはすぐ分かりますけど、サビのメロディーの違いまではちょっと気付きませんでした。もっとちゃんと聴いてみます(^^;。
 さて、そんな「Para mi Canta」を歌っている黄金井修さんが今回ヴォーカル/ギターでフィーチャーされていますね。

◆そうですね。フラメンコというオーダーがあっても、彼の存在無しにはこのアルバムは実現不可能だったと思います。
 自称“アジアン・ジプシー”の彼は、文字通り放浪のライフスタイルを持っていて、両親もミュージシャン、新宿で“流し”もしたことがあるし、キャンピングカーで移動してる、流浪の人です。
 ちょうどN社のCMの時期にギターの伊丹君に彼の噂を聞いて、早速デモテープに参加してもらったのが最初かな。
 アジアン・ジプシーとはよく言ったもので、ネイティブなそれとは違うんだけど、心情的には近いし、生活感は前述の通り“流浪”なので、ある意味ホンモノなわけなのです。ギターも巧いしね。

●ホント、黄金井さんの「ホンモノ感」が上手く活かされてるという感じがしました。
 ところで、全22曲とボリュームたっぷりの内容ですが、全曲劇中で使用されてるんでしょうか?

◆はい、もちろん。それどころか7曲もカットしました。カットしたのは、短か過ぎたり、あまり鑑賞向きではなかったり、同曲のバージョン違いが既に収録されていたりするものです。
 村本さんのライナーにもあるように、音の付け方には逡巡がありまして、最初の打ち合わせで音楽が要求されるシーンを数えていったら60曲もあった。ほとんどPVかCMかっていう密度ですよね?色々お話して、お芝居を尊重するシーン/構わず音が出てくるシーンを分類し、現状に落ち着きました。

●「Spiral to Heaven」「E Chi Lo Sa」(共に『Latinism Reversible』収録)「Ca Fait Lingtemps」(『星ノ玉ノ緒』収録)など昔のアルバムに入っていた曲も収録されてますが?

『Latinism Reversible』('97)

『星ノ玉ノ緒』('93)


◆そうですね。「既成の音源が流れている感じ」というオーダーのシーンがいくつかあって、持ち曲の中からこれらを自分で選曲したわけです。

●えっと、それではここでインナーを見てて気になった点をいくつか・・・思い切って伺ってみたいと思います(^^;。
 ミュージシャンのクレジットについて、三宅さんの使用楽器を見ると今回はおなじみのFender Rhodesの名前がありませんが?

◆実は「Last Waltz」で使ってるんですよね・・・。疲労困憊し切った時期にクレジット関係を書き留めていたのがまずかったのか、記憶が欠落しちゃってました。

●そうだったんですか(^^;。確かに、控えめな使われ方ながらあの歪んだ音色はハッキリ聴き取れます。
 その他にあれ?と思ったんですが、ベース奏者の記載もありませんよね? 打ち込みにしては生っぽいなーという気がしたので・・・。

◆はい、ベースは高橋ゲタ夫さんに弾いてもらってます。版を起こすときに何かのミスでクレジットが抜け落ちてしまったようです。ゲタ夫さんごめんなさい!謝意低頭しきり。

●でも、こちらもファンの方なら音を聴いたらすぐ分かると思うので大丈夫です(^^;。
 あと楽器のクレジットで面白いのが、大路さんの「Chopin Book+Chase Jacket+Snare」とまたろうさんの「Propeller "Inoki"」。どんな楽器だか気になって仕方ないんですが(笑)。

◆大路君のは、たまたまうちのスタジオにあったショパンの曲集とチェイスのLPジャケットをブラシで叩いたものですね。
 またろう君の楽器は正式名のない木製プロペラ状のもので、『
MEMORIES』なんかでも演ってもらったことがあるんですけどブーンという音がします。彼が熱烈な猪木ファンだったので、今回を機に楽器名を"Inoki"と名付けたいとのことでした。

●それは面白いですね。
 もしかして「Chopin Book+Chase Jacket+Snare」はM-20「Last Walz」のバックでシャワシャワ言ってるやつじゃないですか?

◆その通り! ちなみに"Inoki"は、同じく「Last Walz」のイントロで使ってます。

●やっぱり! あのフリーな奏法の感じは大路さんだと思いました。「Last Walz」のイントロもグィングィンいっててカッコいいですよね。
 またろうさんはともさんと一緒にパーカス組として参加ですが、お二人に対して何か特に「こんな感じで」みたいなオーダーはあったんでしょうか?

◆そうですねぇ。映画「Vengo」のサントラの、カホーンをはじめとする打楽器陣がカッコ良かったので、曲を書く時には参考にしました。
 ミュージシャンには打ち込みでニュアンスを伝えた、というのが実際のところです。

●個人的には「Cerca de Ti」のカン!と乾いた音色のスネアがとても心地良かったです。

◆これはとも君のピッコロ・スネアですね。ピッチ感を指定しました。

●ギターではおなじみ伊丹さんが参加されてますね。
 どのギターが黄金井さんなのか伊丹さんなのか、さすがに聴き取りはできませんが・・・「Para mi Canta」などで左右に振られているバッキングが伊丹さんで真ん中に定位してるソロが黄金井さんでしょうか。

◆「Para mi Canta」は確か全て黄金井君が弾いてくれたような気がします。
 あと分かりやすい例で言うと「ハヤブサのテーマ」のメロディを弾いてるのは伊丹君、カッティングやフィル、ソロは黄金井君です。一方「Kyoko's dilemma」なんかは全て伊丹君ですね。

●参加メンバーでちょっと珍しいところだと、トランペットで数原晋さんが参加されてますね。『星ノ玉ノ緒』以来になりますけど。

◆「Last Waltz」と「Caos」の曲想を聴いて頂けると、少し年季の入った名人が欲しかったのがお分かり頂けるかと思います。

●え、それじゃ今回三宅さんのトランペットは?

◆映画本編で僕は1曲だけ自分で吹いたのですが、あまりにも短い曲だったので今回サントラには収録しませんでした。
 従って、自分で吹いているのは「E Chi Lo Sa」だけになるかも。

●そうなんですかぁ、ちょっと残念かも。
 話は変わって、いくつか特に気になった曲について。M-8「Inoki My Dear」はいかにもプロレス映画らしいタイトルですが(笑)、黄金井さんのインプロだそうですね。

◆実はこのトラックは、劇中では異なる3シーンにつけていたギターソロを僕がエディットして1曲にまとめたものです。黄金井君にはおよそのテンポ感、コード感、キー、雰囲気などを伝えて画を見ながら弾いてもらいました。
 タイトルの「Inoki My Dear」は主人公が大事にしている猪木のポスターを熱い目線で見上げるシーンがあって、元々はそのシーンに当てたインプロにつけていたのですが、仰る通りいかにもプロレス・ファン・チックなので、3曲が合体したこのエディットにこのタイトルを付けることにしました。

●なるほど、この曲はサントラならではの楽曲なんですね。
 プロレスらしいといえば、「Sky High」のカバーが入ってますね。この曲をSublimeが歌っているというのはちょっと意外でした。

◆劇中にマスカラスならぬワスカラスが登場するので「Sky High」は必須だったわけなのです。
 今回のアレンジでは映画『プリシラ』の中でドラッグ・クイーンがバスの上に立って唄っているような光景をイメージしました。結果としては、この曲の持つ時代感を活かすために、アレンジ自体は究極のコピーアレンジにして、唄だけイッちゃおう、という方針にしたわけです。
 もちろんSublimeはドラッグ・クイーンじゃないんだけど、結構その役になり切ってくれそうな気がしたので頼んだところ、ドンピシャでした。

●カバー繋がりでいうと、M-18「Valse / Op.64 Nr.2」はショパンの曲だそうですが?

◆これは主人公の奥さんが身に余る環境の変化で神経がショートしてしまって、生け花を切り刻むところ・・・空中に舞う花が綺麗に撮られたシーンを見て、記憶の中からその曲が響いたので、監督にプレゼンして採用されたという経緯です。
 原曲はピアノ曲ですけど、今回は全体の流れがギターだったので、伊丹君に頑張ってもらいました。今回伊丹君には「書き譜」のパートを全てお願いしたんですが、多分この曲が一番大変だったと思います。

●この曲、一聴すると伊丹さんのギターのみに聴こえますけど、よーく聴くと何か後ろにSEが入ってるような・・・?

◆実はこれ、アルペジオを弾いている方のギタートラックを逆回転させて、細かくエディットしてレベルを上げ下げしています。視力が低下しそうな仕事でした。

●おぉ。こういう気付くか気付かないかみたいな要素を聴き取るのが楽しみの一つなんですよね。それだけ密度の濃い音楽というのはファンにとってもたまらない魅力です。
 バックにも何か聴こえる曲というとM-19「Sisters」もそうなんですけど、これは周りのノイズも一緒に録音されたとか?

◆ははは。この場面にはギターソロの曲のオーダーがあって一応録ってあったのですが、自分にはしっくり来ていなかった。
 もうスタジオを押さえる余裕もなかったので、自宅スタジオでピアノを弾いてみることにして、マイクプリのゲインをかなり上げて、2本のSHURE58で録った。フェーダーのEQもその前に録った何かのセッティングが残ったままで、ノイズとも相まって不思議な質感になったので「よし、このまま」という運びに。エンジニアの鎌田さんに「これどうやって録ったんスか?」と訊かれました。
 椅子のきしみやペダルを離す音も入っているでしょ? こういう音を取り囲む環境音がけっこう好きなのです。

●ヘッドフォンで聴いてみると音の質感の違いがよく分かりますね。
 ところでラテン/フラメンコというテーマの中で様々なタイプの曲が並ぶ中、特に"JM節"が出ているのは先にも話に上がったM-20「Last Walz」が一番のような気がしたんですが。テーマの制約を感じさせないし、唯一Fender Rhodesが入ってるし(笑)。

◆そうかもしれませんね、ここはワルツという指定はありましたけど、僕はニーノ・ロータ的なものにしたかったような記憶です。

●さて、そろそろ締めに移らせて頂きたいと思います。今回再発盤が同時発売になった『プープーの物語』('98)以来のサントラでしたが、今回制作を終えられてのご感想は?

『プープーの物語』('98)


◆映画制作中はとにかく時間が無いし、曲数は多いしで大変でしたけど、その後すっかり忘れる時間を頂いて、サントラ盤のミックスやマスタリングができたのは、ある意味初心に返れてラッキーでした。
 サントラ盤は劇中での登場順をかなり無視して、リスニングに耐えられるよう、編集にも曲順にも時間をかけて作業しました。結構ボリューム感のあるアルバムになっちゃいましたね?
 サントラというと背景に徹するというか、印象派的というか、BGというか、インストゥルメンタルな印象があるかと思いますが、今回は監督の要望がとても有機的な音楽だったので、こういうアルバムを作ることも可能になったわけです。
 CMのように一過性ではなく、残っていくものであるということは僕にとって凄く意味深い事なので、これから映画には今までより意欲的に取り組んでいきたいと思っています。

●そういえば、CoCa's Wide Shutパリレポート編に「近くカリム・ドリディと一緒に映画を作る」ということが書いてありましたが?

◆えー、まだ具体的に公表できる段階ではないですが、僕の音楽(既発表曲)を聴きながら書いたという脚本は読ませてもらっています。タイトルは"Glis-Blanc"で、来年早々クランクインの予定だそうです。
 ただ映画界、何がどこでどう転ぶか分かりませんから、詳細は決定後に。
 彼は既にもう1本サーカスにまつわる作品も撮る予定があって、僕はそれにも興味津々です。

●おお! それは三宅さんの関わり方が一段と深いですね。次回情報を楽しみにしてお待ちしてます。
 それでは最後に、CDのインナーに対抗しまして(笑)、村本天志監督へのメッセージをお願いできますでしょうか?

◆相米慎二監督を師と仰ぐ村本さんは、映画をとても愛しています。
 そして音楽も心から愛しています。
 ご自身のベースがある下北沢の文化や環境も、誇り高く愛しています。
 事務所に群棲している怪獣のフィギュアも、慈しみ深く愛しています。
 そして勿論プロレスも痛いほど愛しています("ゴング"は常に携行)。

 愛するものが沢山ある村本さんは、とても丁寧に仕事をされます。
 CMの演出コンテは全て手作業で製本、調印されていて、可愛いです。
 愛に溢れたお仕事の一端を担えることは、僕の大きな喜びであります。
 これからもその「惜しみない愛」の注がれた作品をお手伝いできるよう、僕も「愛の貯水池」をいつも満タンにしておきたいと思う次第です。

●すごく貴重で面白いお話を伺うことができました。お忙しいところ、ありがとうございました!

(Special Thanks to 村本天志)



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