CoCa's Wide Shut Update:01/10/27

▼ Report #5


イノセント・ボッサ NY編 その2)〜JM氏 再び死す?

Text&Photo : CoCa
(構成:Kiev)


その1)

9月25日

 今日からRiver Soundにスタジオを移して、MIXを始めます。このスタジオは、オーナーがスティーリー・ダンのドナルド・フェイゲンなんだって。
 アッパーイーストサイドにあるそのスタジオは、まるで舞台裏のように床が木で出来ていて、歩く度に軋む。っていうかビルごと傾いてるから、掴まって歩かないと危ない(ドリフのコントのセットみたいに立て付け最悪!)。
 私たちの使ったスタジオは、ミキシングルームと、大きなブースそれに6畳ぐらいのロビーが付いてる。ブースの中にはオルガンのコレクション、そして何故か、お茶の間ショッピングとかで売ってる様な緑のパンチングマシーン人形が置いてあった(知ってる?)。
 ミキシングルームはすっごく寒い!5分もいたら凍死しそう・・・。JM氏は歯の痛みに耐えながら、コートを着込んで耳を澄ましている。
(Photo[1]
 ミキサーのパット・ディレットは、アートといつもやっている人で、すっごくナチュラル。且つググッといい感じを引き出してくれる凄い人。
 アシスタントのトニーは、腰までのストレート・ロングヘアに顔中ヒゲ。チョッパーとか乗ってそうで、身長165cm、体重85kgってところでしょうか?腕にはタトゥー。コ、コワい・・・。

 初めに取りかかったのは「A Lua Pela Grade」。
 アートのギターをググンと上げ、ビリビリ〜ッていう音を残した。そこが一番のポイント!この曲は、アートもヴィニシウスもマリアンネも唄ったから、「リレー形式にするっていうのも面白いね」ってことで、アートだけのとリレーの2バージョン出来ました。
 2曲目は「Cai Nessa」。順調です。ヴィニシウスの声が子供みたいでかわいい!

 今日の夜は、スタジオ近くのイタリアンをデリバリーにしました。JM氏はトマトクリームのスパゲティー、S嬢はトマトソースのニョッキ、私はプチトマトとマッシュルームが入ったパッパルデッレです。超大量なのが到着、JM氏は歯痛のせいで3口くらいしか食べなかった。大丈夫かな〜。

アメリカ式なのね(1)

 ところで驚いたんだけど、こちらではMIX DOWN中でも、スタッフの食べ物は自腹!(日本では予算の中から食事代も出すのが普通)
 これは正しい!予算は音楽の為にだけにあるという考え。食べたい物を好きな時に、本気で選んで、すごく美味しそうに満足そうに食べている。だから、日本みたいにミキサーとアシスタントが後で申し訳なさそうに冷たいカツ丼をかき込んだりする事もない。JM氏は日本でもこのシステムを推奨しているんだけど、なかなか習慣的に・・・ね?
 余談ですけど、ミキサーのパットは、私たちがスタジオに着く頃、いつもスタジオでブランチを食べているの。メチャメチャ美味しそうなホットケーキの2段重ねだったり、大きなハンバーガーだったり、その食べっぷりが、なんかラッコの食事風景みたいに可愛くて、心が和んじゃう(JM氏もパットの食べ方に惚れてました)。

アメリカ式なのね(2)

 ここの人たちはきっかり12時間労働。2曲目の目処がついた所で、一斉に帰り支度を始めた。昼12時〜24時まで。延長無し! スタジオの人も、私たちと一緒に帰る。アシスタントのトニーだって一緒に帰る。わ〜、トニー電気消しまくってるし・・・廊下とか真っ暗じゃん、すご〜い!

息抜きはバッハ

 MIX DOWNは、同じ曲を何十回何百回と、初めて聴く気持ちで聴かなくちゃ行けないという忍耐を要する作業だから、JM氏は少しずつ休みを取って、リフレッシュを心掛けている。ラッパを吹いたり、ピアノを弾いたり。
 ・・・で今回は、たまたまピアノの譜面台にバッハの楽譜が置いてあったワケ。何を思ったのかJM氏は、「俺左手!お前右な!」っていう感じで、私をパートナーにしてバッハをお稽古し始めました。
 でもさ、初めからグレン・グールドと同じ速度で弾こうとしてるものだから、2人ともボロボロ。それはいくら片手でも無理ですよ〜。それに、「全部スタッカートで弾いてなかった?」とか「アクセントの位置はココの方がカッコいいよなっ!な!」とかまたまた始まっちゃうから、また別の緊張が走っちゃったりするの。もうー! でも、JM氏にはいい息抜きになった様で・・・めでたし。


9月26日

 JM氏からの電話で目を覚ます私。
 「オッス!ホテルのランドリーの人が部屋を間違えて朝9:00に電話してきたせいで、起きちゃった。二度寝しようとしたけど、歯が痛くて眠れん。集合!」
と、呼び出しをかけて来たJM氏(眠いよぉー)。
 急いで朝の用意を済ませ、JM氏の部屋に向かった。「おはようございます!」と元気に挨拶!しかし、JM氏はMacから目を離さず、「ん!」と唸っただけだった(チェ!)。
 その後、メールチェック、歌詞の訳詞をして、日課のプールへ出かけるJM氏(歯が痛くても、プールは勿論休みません)。
 帰ってくると、ホテルを出る時間まで、メールの返事、スティーブと電話で交渉、訳詞の続きなど、ずーっと、ずーっと、ずーっと働いている(大丈夫なのかしら?壊れちゃったんじゃないの?)。

 時間になったので外に出ると、雨が降ってて、トレンチコート着てても震えちゃうくらい寒い。JM氏は歯痛だし、タクシーはつかまらないし、なんか暗い気分・・・。
 今日は「Cai Nessa」の続きから。14:00には2曲目に取りかかる。作業は順調。でもJM氏の歯痛は酷くなるばかり。もう気絶寸前って感じ。
 数十分後、遂にJM氏はロビーのTVでオリンピックを観戦しながら歌詞の英語訳を書いていたアートに、歯痛の状況を打ち明ける。するとアートは、マネージャーのスティーブに頼んで、歯医者の予約の手配をしてくれた。MIXになった時から、「これはJM氏のアルバムだから・・・」ってことで自ら一歩退いて、ロビーから見守ってくれる役に方針変更した事といい、器がデカイ感じっす!(この頃には、禁煙のストレスもかなり減ってきたの。良かったわ〜)
 スティーブから電話が来て、今日予約が取れたとのことで、早速出かけるJM氏。寒くてコントロールルームに入れず、暇を持て余していた私とS嬢は、歯医者の場所がホテルに近いこともあって、一緒にタクシーに乗る。そして、1時間後にホテルで待ち合わせをし、辞書を片手に歯医者に向かうJM氏を見送った(大丈夫かねぇ?)。

S嬢 ティファニーに泣く

 JM氏の事は心配なんだけど、せっかくNYに来たんだし、S嬢もずっとスタジオでは可哀想ね。っと言うことで、私たちはティファニーを偵察(S嬢の強い要望を頂いたので)。
 が・・・S嬢曰く、「もっとシンプルで可愛いのがたくさんあるのかと思ったのに、結構オバさん臭いね」だってさ。まあ〜結構言うわね〜。大人になったのね。フフフ・・・。
 店内は日本人の山。それに対応するのに疲れた店員。感じわる〜。
 ティファニー=ヘップバーンだったS嬢の夢は脆くも崩れ去ったのだった。

★JM氏歯医者物語

 待ち合わせの15分程前にホテルに着いた私とS嬢。私は本の続き、S嬢は下の売店で買ったセブンティーンを熟読。
 それから待つこと1時間。待てど暮らせど、JM氏は戻らない。どうしちゃったのかしら? 人身売買されちゃってるなんて事はないわよね〜。歯医者に行く前に失神して、病院で寝てるとか?
 本気で心配し始めた頃、お!帰ってきた! わりと元気そうじゃん! 良かったぁ〜。
 歯の方は一安心。でも、今度は作業の方が心配。とにかく急いでスタジオへ。タクシーに乗り込むと、JM氏は顔を高揚させながら、歯医者で遭った世にも奇妙な(?)出来事を雪崩の様に語り始めた・・・。

 ※世にも奇妙な物語 NY篇(2)

 この、「電気屋のネズミ」に続く、世にも奇妙な物語NY編その2マラソンマン・アゲインは、あまりにも奇妙で、涙なくしては読めない読み物! JM氏本人の筆でお楽しみ下さい。  

 スタジオに戻ってみると、今日の2曲目「Trejeitos」は殆ど終わっていた。アートがJM氏の代わりにやっていてくれたのだった(何て頼りになるやつなんだ!)。JM氏がほんの少し手直しをしただけでOK!
 次は「Tres」。これはかなりの難しい曲だから、早めに手を付け始めよう!って事で、今日やっちゃいます。歯痛は治ったものの、痛み止めの副作用で筋肉ユルユル、ドロドロのJM氏。壁を伝ってもまっすぐ歩けない。危なっかし〜、弱っちい〜、いじめた〜い・・・ウソ!
 そんな状況は一向に気にせず、パットはまるで積み木で遊んでいるみたいに、悩むことなくスルスルと絡まった音達を解いて、置くべき所へ納めていく。すごいぜパット!
 ということで24:00になりました。大変な1日だったけど、アートとパットの素晴らしい感性と、技術と、友情の力によって、この日も無事に最後まで仕事を続行することが出来たJM氏。良かったね。


9月27日

 おはようございまーす! JM氏、元気になりました!(良かった〜)。いつもと同じように朝からMacで仕事をし、プールにも行きました。そして、タクシーにてスタジオへ。

 歯痛のストレスから解放され、再び好奇心の固まりに戻ったJM氏は、遅過ぎて機材搬入の時しか使わないという謎のエレベーターを試してみることに。そこにはエレベーターボーイならぬエレベーター親父が・・・。5畳くらいある広いエレベーター内の床はボッローい木で出来ている。そして、それを動かすにはその親父がボタンを押し続けないといけない。エレベーターを動かしている間は、体も掻けないし、くしゃみだって出来やしない・・・。5階まで上がるのに5分以上かかるっていうのに。

ヴィニシウス 今日も野放し

 やっとスタジオに着くと、ヴィニシウスが元気そうにJM氏に抱きついた。
 さてと、早速問題の「As Tears Go By」を録ります。日本茶をたっぷりとカップに注ぐと、ヴィニシウスはブースに入り、軽ーくしんみりと歌い始めた。JM氏は満足そうに微笑む。アートは大きなデニッシュを頬張りながら、コントロール・ルームの一番前に立って観戦。楽しそうで、美味しそうだ。ヴィニシウスの「As Tears Go By」も、優しくてすごく素敵!3回くらいでOK!
 早速コントロール・ルームで唄をチェック! でもヴィニシウスったら、唄を聴くと黙ってられなくてハーモニーを付けちゃうので、どのテイクがいいのか判んなくなっちゃう。人差し指を鼻の前に出されるとついつい匂いを嗅いでしまうネコみたい。かわいい〜。

 ただ今、「As Tears Go By」のMIX中。JM氏とアートとヴィニシウスがロビーのソファーに3人腰掛けて、「As Tears Go By」のポルトガル語を英語に直している。大人こどもが3人集まると、変な感じ。はあ〜大変だったけど、なんとか一見落着? 良かった良かった。
 さて、とてもハッピーに仕事を終えて、ヴィニシウスは帰っていった。でもさ、今夜約束してたはずの“アメージングな日本食”の店の話題は一言も出なかった。忘れちまったんだね・・・。まっいっか。

 その後、昨日に引き続き「Tres」を落とします。
 「Tres」を落としながら、Zeno君がポルトガル語で唄った「Trejeitos」の歌詞をJM氏が訳していたので、拝見させてもらった。そしたら読んでいるうちに、何だか全然歌詞とは違う景色が頭の中に浮かんできた。
 アジサイの木の下で、雨宿りをしてみた日の私。ヘビイチゴを摘んでたら、ネズミの死骸が指に触れて、今日で死ぬんだ・・・と思った日の私。超リアルに、子供の頃の特別じゃない日の出来事が、頭の中で再生されていく。
 何で?何なの?このワープ感覚は・・・これがサウダージ? これってボサノバの魔法? これを聴いたみんなも、こんな風にいろいろ見えたりするんだろうか? それって、楽しいな〜。
 さてさて、今日は本当に順調に進みまして、今からもう1曲頑張る事にしますってさ。イエーイ!

 今日の夜ご飯は、中華の出前を取ってみました。アートとパットはタイ料理にしてました。カレーだった気がします。私たちのメニューは、野菜のクレープ巻きと、ビーフ入り焼きそば、チキンチャーハン也。チャーハンは美味しかったけど、他のは不味かった。焼きそばも、肉の中に焼きそばが泳いでるくらい肉が多くて、資源があるからって君たちいい加減にしなさい!って思うわ。


9月28日

 今日のJM氏は歯医者に行ってからの出勤だから、14:30にスタジオ入り。
 この日は、私たちも、アートも、トニーも、マイ・フェイバレット・チョコチップクッキーを買ってきた。封を切ったチョコチップクッキーが3つ、ロビーの棚に並んでいる。リサーチ好きのS嬢が食べ比べたところによると、アートのが一番、私たちとトニーのはまあ同じくらいだったそうだ。ムムム・・・残念!

 さて話を戻します。アートの「フジサン」っていうスキャットが入る「Gaiato」(「♪フジサン〜」と聴き取れた人いたかあ?曲の最後の方を聴いてみてネ)を難なくクリアしたパットは、早速次の曲に取りかかっております。
 あっという間に時は過ぎ、ただ今18:45。JM氏はただ今休憩中。

パット観察日記

 その隙を狙って、パットの凄さを探ろうとコントロール・ルームにやって来た私。凄い仕事をする人はみんな変わっているから、きっとパットも変な癖を出すに違いない!? と言うことで、JM氏が座っていた席を陣取り、卓をいじっているパットの背中から離れること1.5m。
 う〜ん・・・左足が貧乏揺すりはしているけれど、特に変わった動きは無し。パットからは、ピリピリとか、トゲトゲとか、怖いオーラは全く感じられない。イッちゃってる感じもないし、悩んだり、JM氏に質問したりもない。逆に雑誌でも読みながら、ポップコーンを摘んでいるんじゃないの?ってくらいリラックスしてるし、余裕出しちゃっている。きっと自分の“気持ち良さ”を大事にしているし自信があるから、悩まないんだね。でもさ、その“気持ち良さ”が、自己満足で終わらないレベルなところが、パットの一番凄い所だよなあ〜。だって、パットが「聴いてみて!」って言った時には、90%はいい感じになってるんだもん。寒いよ〜。もう限界だー。観察おわり!

ちょっと変わったハプニング?

 ロビーに出てみると、「A Lua Pela Grade」の英語の歌詞を日本語に訳していたJM氏が、悩みのポーズをしている。悩みの元は“atheism”という単語をどう表現するかについて。
 “atheism”という単語は、“無神論”って意味でしょ? ・・・だから、歌詞の冒頭の部分をそのまま訳すと、“(君にさよならを言うくらいなら、)僕はもう無神論者になるよ”ということになっちゃうわけ(歌詞カードを見て参照してね)。日本人にはちょっとこの直訳は説得力無いし、言葉が強くなり過ぎちゃう。
 JM氏は、なるべくアートの言葉の雰囲気を壊さない様にしたいから、
 「アート、“atheism”っていうのを、もし他の言葉で言うならどんな言葉使う?」
って訊いてみたんだけど、アートはその感覚が分からないから、
 「え、どうして? “atheism”は“atheism”だよ。他の言い方? 無いな〜」
みたいな返事。
 JM氏は、一生懸命説明する。
 「一応僕はハーフ・クリスチャンだから、ミドルネームもあるし言ってることも分かるんだけど、日本人には、神様は一人だけって考えがあまり無いんだ。木にも、山にも、滝にも、太陽にも、風にも、それぞれの神様がいるって考えてる人が多いんだよ。だから、神様のイベントなら何でも大好き。クリスマスも祝うし、お正月には神社に行くし、ハロウィンには変装して酔っぱらうし、お墓参りはお寺に行くし、その他にも神話に基づいたイべントがいっぱいあるんだよ。だから逆に、神様っていうニュアンスをもう少しソフトにしないと、すごく宗教チックな唄に思われちゃんだ」
 「ふぅ〜ん、そうなんだ。でも“atheism”じゃダメなの?」
 その後も悩み続けるJM氏。へ〜、違う文化の人がお互いを理解し合うって、難しいんだな〜。面白〜い!と思ってしまった。
 それで最終的にJM氏が出した結論がこれ! “僕はもう神様にさよならを言うよ”でした。うん!これなら、日本人に馴染みやすくていい感じ、じゃないですか?どうですか?

 今日の夕食は、みんな外でバラバラに取るという。アートは、日本から来ているコム・デ・ギャルソンの人と約束があると言って出かけていった。アートはコムデ・ギャルソンのファンです!
 私たちは、近くのベトナム料理屋さんに入った。結構イケます。食べたのは、フォー、揚げ春巻き、オクラのカレーでした。
 24:00、今日のMIXも無事終了。

 さて、NYでの作業もいよいよクライマックスです。
 次回「その3)」をお楽しみに!


CoCa's Wide Shut