=北京到着=
飛行機の扉を出ると、宮家氏がお一人で何気な〜く迎えに来て下さっていた(さすが公使さま!こんな所まで入ってこれちゃうのね。わお!)。
団体行動が出来ないこの一行は成田からすでにバラバラだったが、北京に着いても超マイペース。挨拶もそこそこに勝手に入国を済ませ、勝手に荷物を取り出口までズンズン歩いて行ったのだが、税関前で何となく集結したばっかりに怪しい軍団と見なされ足止め。
言い忘れていましたが今回メンバーと一緒に入国する楽器は、
・JM氏=trumpet+flugelhorn+flumpet+recorder
・大路さん=soprano sax+alto
sax+bass clarinet+flute
・伊丹さん=acoustic guitar+electric
guitar+electric sitar
・等さん=6 strings bass+electric
upright bass(これはハードケースに入っていてかなり大きい)
・窪田さん=acoustic guitar+electric
guitar
これだけの楽器が集結するとやっぱり結構な迫力。当然税関の人にとっては「突っついてみるべき一行」だったみたい。宮家氏のお力で事なきを得たものの、外へ出して貰うのに20分くらい待たされちゃった。
気温は日本と変わらないくらいで思っていたより暖かいけど、やっぱりTシャツの上にヨットパーカーを着ただけの窪田さんは寒そう(他のみんなはガメラのように着込んでいる)。外にはメンバーの面倒を見て下さる畠山さんが待っていてくれた。彼女は美味しいレストランをたくさん知っている、オデコが印象的な可愛らしい女性。
さて、楽器と一緒に小型バスに乗り込んだメンバーは、ホテルに向かって走り出した。ひとたび舞台に上がると野獣と化す人達なのに、小さなバスにゴトゴト揺られて良い子に座っている光景はまるでギャグ!
そんな中でも宮家氏は、
「本当によく来て下さいました。僕の二年来の夢が叶いました」
という言葉を皮切りに、これからの予定、今夜の食事、明日・明後日の客層の違い、予想されるお客様の反応、伊丹さんやJM氏との馴れ初めなどを丁寧に解説して下さる。その姿を見ていると、彼にとってどんなに音楽が尊いものであるか、どんなにこの一行を呼ぶ事に情熱を傾けて下さったかがズンズン伝わって来て、笑っちゃいそうな現状を忘れ、素直にここに居られる幸せを噛みしめてしまう。
ホテルに着いて、チェックインをするのに待たされること30分。やっとチェックインを済ませ、リハーサルまでの間、少しゆっくりしようと思ったJM氏。でも部屋を開けたらシングルルームなんですけど?
またカラカラと荷物を引きずり1階のフロントへ。おっと! 額にチキショーマークが・・・。付き添って下さっていた宮家氏も、もうリハーサル会場へ向かってしまい誰もいない。フロントの人は「え? 部屋が違うんですか? 少しお待ち下さい」と言ったまま右往左往。
「娘が同行しているので、広めの部屋を予約してもらっているんです!」
と怒るJM氏。しかし、
「分かりました。それでは、一応今取れているお部屋でくつろいで頂いて、後ほどお部屋を交換致します」
「だめー!!これからすぐに仕事に行くから着替えたいし、シャワーも浴びたいし、それには荷物だって解かなくちゃいけないんだから!」
と取り出したのはMacintosh。
「仕方がないな〜。ここに証拠が残っているんだい!」
と予約確認表を見せる(いつからあなたは水戸黄門?)。これを見たらホテル側も降参。JM氏って全く敵に回したくない人物です。
戦いが終わりロビーを通って部屋に行こうとした時、畠山さんがゆっくりお茶を飲んでいるのを発見!(なんだ〜畠山さんそこにいたんじゃ〜ん!ピキピキ)苦笑いしながら部屋へと向かうJM氏なのであった。
=リハーサル会場で=
16:30、JM氏は他の皆さんより一足早くリハーサル会場へ。
・・・でも着いたのは外務省広報文化部? アーチ型をした車寄せで、またまた出迎えて下さった宮家氏と一緒に中へ入る。中国の若者達が、日本のテレビドラマのビデオやCDを思い思いに楽しんでいる視聴覚室を抜け(ここも宮家氏の管轄なんだそうです)、扉を開けるとそこは多目的ホール。ここがリハーサル会場らしい。50席くらいある机付きのイスを、部屋半分に寄せてスペースを確保してある。
そこでは既に京劇の役者さん達が先生達にお稽古をつけてもらっていました。その後ろにバンドのスペースは一応あるみたいなんだけれど、な〜んにも用意されていませーん。楽譜立てと、マイクスタンドが“枯れススキ”のように部屋の片隅に立っているだけ。頼んでおいたドラムセットも、ギターアンプも、Rhodesもまだ。そこへチン・フェイ氏が笑顔で握手をしに歩み寄って来てくれた。続いて男形の潭正岩さん、女形の胡文閣さん、隈取り役の男性(隈取りとは、歌舞伎や京劇の特殊なメイク方法。赤・青・墨などの絵具でお面のような顔になっている役者さんを見たことありませんか?その役の方です)。それに2人の京劇の先生(“梅欄芳”の弟子だった人らしい)、みんなと挨拶や握手を交わす。宮家氏の奥様、みどりさんも応援に駆けつけて下さっていた。他にもスタッフの人なのか、誰かのお友達なのかは知らないが、とにかく人がたくさんで暑い!
打ち合わせをして、とりあえず11/25・26のリハのCD-Rに合わせて踊ってみては?という事になった。
後で聞いた話だが、チン・フェイ氏は、アレンジされた“夜深沈”を北京に持ち帰ると、役者さん達に一日6時間お稽古させたらしい。ハア〜大陸パワー煎じて飲まないと!
しばらくすると、やっとRhodesが運ばれてきた。Rhodesを運ぶのには最低二人の人間が必要なのだけれど、その内の一人は何と!というかもちろん!宮家氏。その神妙な顔つきは、お姫様が乗っている籠を運ぶ人のようである。
=任務=
さてさて最近海外へお供する度、何らかの任務を仰せつかるようになった私(デンマークの時の任務はかなり傑作で、“それをJM氏に任されるようになるなんて大した出世だ!”と私の知り合いはお腹を抱えてヒーヒー笑った。このお話はまたいずれ・・・)。
今回の任務は、JM氏の魂の通り道!と言っても過言ではないであろう、Rhodesと、サンプラー及びエフェクターを繋げ、サンプラーをセッティングするというもの。すごいでしょ!緊張するぜ!
=エピソード1=
11月のある日、突然JM氏が私を呼び白い紙と鉛筆を持って来いと言った。
急いで用意しJM氏の部屋まで届けると、
「俺が使うんじゃない! お前がこのエレピ(Rhodes)の上に乗っているアンプとサンプラーの配線や位置を書くのだー!」
とおっしゃる。
(作業中・・・)
「出来ました!」と私。
「よし!間違いはないだろうな?」
「え? た、多分」
「多分じゃない!」
「だ、大丈夫です」
「よ〜し!今回はこの配線を任せる。いいな!もし間違えたら、ボン!一貫の終わりだぞ。中国に換えはないからな」
「えっ!それって#$%&・・・」と口ごもっている私に、
「それじゃ、プチプチ持って来ーい!」(エアパッキンの事を言っているらしい)
と、カワウソのような笑顔を浮かべながら次なる指示を出すJM氏(これってイジメ?)。
こうしてA4サイズが収まる幅20cmの布バックに、アナログディレイのシミュレーター、エフェクター3つ、moogerfooger、サンプラー、ケーブル3本をきっちり収納する特訓を受けさせられたのだった。
=エピソード2=
11/25のリハーサルは、私にとってもセッティングのリハーサルをさせていただく貴重な日だった。
JM氏がメンバーの方達とお話をしている間、配線図を見ながら間違いのないように指さし確認で作業終了。我ながら今回はスマートに任務をこなせたもんだと席に着き、始まったリハーサルを眺めていた。
すると3曲目が終わったくらいだろうか、JM氏が人差し指を使って私を呼んだ。
「繋ぐ場所が違っているぞ!」
「え? ちゃんと書いてある通りに繋ぎましたよ。確認したもん!」
「デジタルディレイのジャックの配線は手前の穴の方だろう!」
「あれれ? 穴が2つある・・・どうして? 私の配線図にはそんなこと書いてないのに。何故?」
「何故じゃなーい!ボケるな!」
どうやらエフェクターの中の1つ、デジタルディレイには、OUTPUTとPANNING OUTがあったらしいのですが、私はそれに全く気付かず目に付いた所に繋いでいたら、それがPANNING
OUTだったんですって! つまり、私の繋ぎ方だとディレイした音だけしか聞こえなくて、弾いたタイミングより全部が遅れちゃうのだ。
「俺は今日、どうしてこんなヘタクソなのかと思って、自分を責めていたんだぞ!どうしてくれるんだ!」
などと涙目で訴えるJM氏。が、
「ラッキーでしたね、親方。今日気が付かなかったら逝っちまうところでしたもんね」
との私の言葉に、腰までも砕けたJM氏だったのであった。ひっひっひ・・・。
=セッティングからタイヘンアルヨ=
さて、無事Rhodesのセッティングも終わり、役者さん達の稽古にも一段落ついた所で、JM氏が口を開く。
「僕たちの演奏は毎回変わるので、終わりたい時の合図とか、ここだけは決めたいという場所の合図を決めたいのですが・・・」
というJM氏の言葉を、初めはみどりさんが、続いてもう一人の女性が通訳して下さったのだが、踊りや音楽の用語が共通じゃないので、話が遠くてなかなかお互いの言いたい事を伝えられない。空白の時間を過ごすうち、音響さんもJM氏以外のメンバーも揃い、本格的にセッティング開始時間となった。
以前からリハの日には、本番と同じ機材が揃っていないと困ると言ったのに揃っていないみたい。窪田さんがオーダーしていたディレイは何だか怪しい代物で、音が鳴りっぱなしになったりしていたもん。1ヶ月以上も前からオーダーしているのが揃えられないのに、明日大丈夫なのだろうか?という不安にも増して、音響チームの中国人スタッフが殆ど?っていうか、絶対素人!ということに気が付いたメンバーは愕然とする。気をつけていないと、一発で電気系統はお釈迦になりかねない。こわいよー・・・。明日、音出るのかな〜。
=中国のマンパワー!=
メンバーがセッティングにイラつきを見せた頃、みどりさんがこの国と付き合うポイントを教えてくれた。
「ここで何かしようとすると、もうダメだ〜って思う事よくあるの。日本人に比べてとってもゆったりしているから。でもね、結局最後は丸く収まるの。本当に不思議なんだけどそうなのよ。プライドをとっても大事にする国民だから、短気を起こすのが一番だめ。それさえ守れば最後の最後で信じられないパワーを出してくれるの」
このみどりさんの言葉は、北京に居る間中お札のように私達を守ってくれた。 |